幻の女
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『幻の女』(まぼろしのおんな、原題:Phantom Lady)は、1942年にウィリアム・アイリッシュが発表したミステリー小説である。
妻殺しの冤罪をかけられたスコット・ヘンダーソンを救うべく、友人ジャック・ロンバートが奔走し、アリバイを証言してくれる「幻の女」を死刑執行日までに探し出そうとする「タイムリミット・サスペンス」。
稲葉明雄の翻訳による書き出しは、名訳として名高い。
夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。
もう一つの真相?[編集]
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ネタバレとなる記述が含まれています |
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ミステリ評論家の佳多山大地は、作者のウィリアム・アイリッシュが同性愛に悩まされていた事実を踏まえて、本作の真犯人の動機もじつは「同性愛」が関係しているのではないか、という大胆な解釈を披露している。[1]真犯人のジャック・ロンバートが本当に愛していたのは、ヘンダーソンの妻マーセラではなく、ヘンダーソン本人であった。ヘンダーソンを束縛する妻マーセラを殺害し、さらにその罪をヘンダーソンに擦り付けることで、愛する人を誰の手にも触れられない監獄へと閉じ込めることが真の狙いであった、というのだ。 この面白い指摘は、夏目漱石の『こころ』に対してしばしば行われる指摘と同型であるといえよう。『こころ』は一見すると「二人の男が一人の女性を奪い合う単純な三角関係」の物語に見えるが、その裏に「男性同士の密かな同性愛的な軋轢があった可能性」は多くの文芸研究者が指摘してきたところである。 |
出典[編集]
- ↑ 佳多山大地『謎解き名作ミステリ講座』第2章