名ばかり管理職
名ばかり管理職(なばかりかんりしょく)とは、会社の名目上の地位は管理職であるが、それに見当たった報酬や権限のない社員をいう。2008年の流行語大賞のトップテン入りした[1]。
経過[編集]
名ばかり管理職はいわゆる「マクドナルド裁判」においてファーストフード店の店長職は管理職かどうかを争点とした裁判で登場したキーワードである。この判決を契機として、コンビニエンスストアの多くは店長の人事管理を見直し、労働基準法上の管理監督者としての取り扱いをやめ、時間外割増を支払うことに変更する事例が相次いでいる。 裁判は最終的に高等裁判所で和解し、2年分の残業代など約750万円に、提訴後の残業代を含めて250万円を増額した。和解条項には、訴訟の提起を理由にした降格や配置転換をしないとの条文が盛り込まれた[2]。
裁判の経過[編集]
裁判の原告は昭和62年2月に被告会社に社員として採用され、同年7月にセカンドアシスタントマネージャー。平成2年11月にファーストアシスタントマネージャー、平成11年10月に店長(伊奈町店)にそれぞれ昇格した。その後、本庄エッソSS店、東松山丸広店等の店長を経て、平成15年2月から高坂駅前店(店長不在のサテライト店1店の担当を兼務)、平成17年2月から125熊谷店の店長を務めていた。 被告会社の就業規則にはパートの処遇、採用、解雇の可否、昇給の決裁権限を有する店長、営業スタッフ、会社の重要な戦略、戦術を決定する等、および部長不在時にその職務等を代理決裁するマネージャー職以上の者を「管理又は監督の地位にある者」と位置づけ、就業規則の時間外勤務、休日勤務、深夜勤務の規定を適用除外としていた。 マクドナルドでは2003年から給与査定制度が変わり、成果主義が採用され、人件費抑制がされるようになり、店長自身をシフトに組み込めなければならなくなっていた。高坂店に異動すると時間外労働は月100時間を超すようになった。前年の実績をベースにした会社目標に対して、近隣にできた競合店の影響は一切考慮されず、目標達成が困難となり、生活の大部分の時間を仕事に費やしていた。5月に労働基準監督署の調査が入ったことは自己責任と上司からばっさり切られてしまった。
被告会社は店長はクルーの採用やスウィングマネージャーへの昇格、クルー及びスウィングマネージャーの人事考課、昇給等を決定するほか、社員の人事考課、昇給等の決定などの労務管理も行っているから、管理監督の地位にあると主張した。さらに店舗の売上計画立案、予算の立案、店舗における支出の決定、販売促進活動の企画・実施、店舗衛生等の管理、店長会議等への参加を通じた被告の経営への参画を行っているとした。
原告は管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、店長は店舗のアルバイト従業員を採用する権限はあるものの、何人でも自由に採用できるわけではないく、その時給を自由に決められるわけでもないと主張した。さらに社員を採用する権限はなく、第1次評価者として社員の人事考課は行ったとしても、その昇給・昇格を決定する権限もないと主張した。店長は、店舗に関する次年度の売上計画や予算を策定するものの、その策定に自由裁量はなく、店舗の販売促進活動の内容を決定し、これを実行する権限も与えられていない。店長会議は単に会社の方針を伝達する場に過ぎないと主張した。
裁判所の判断は、店長自身の労働時間について、自分の裁量で決めているというより、やむなく長時間労働をしており、本社から営業時間に関する方針が示されれば、事実上は各店長はこれに従うことを余儀なくされており、裁量権はないと認定した。 店長は店舗の販売拡大のためにイベントの協賛、クーポンの配布、ポスターを掲示するなどの権限はあるものの、実際には予め本社に企画書を提出し、その承認を得る必要があった。店舗で独自のメニューを開発したり、原材料の仕入れ先を自由に選定したり、商品の価格を設定するということはもともと予定されていないと判示した。
裁判所は店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを企業の立場から要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められないと結論づけた。さらに勤務実態は労働時間に関する自由裁量性が店長にあったとは認められないとした。長時間労働を原告個人の能力の不十分さに帰責するのは相当でないと裁判所は判断した。
結論として、店長は非管理職にあたるとして、裁判所は請求された残業代をほぼ請求どおり750万円の支払いを会社に命じた。
参考文献[編集]
- ↑ 新語・流行語大賞自由国民社
- ↑ 名ばかり店長訴訟が和解朝日新聞、2009年3月18日