伊豆半島東方沖群発地震
伊豆半島東方沖群発地震 (いずはんとうとうほうおきぐんぱつじしん) は、伊豆半島東部および伊豆半島東方沖などで繰り返し発生する群発地震である[1]。
概要[編集]
伊豆半島東部の伊東市の沿岸から沖合にかけての領域では、群発的な地震活動が繰り返し発生している[2]。特に1978年以降は地震活動が活発で、1980~90年代には毎年のように発生し、それ以降も2~3年に1回の頻度で発生している。 群発的な地震活動域が伊東市の市街地に近いことから、M5クラスの地震が発生すると伊東市を中心として震度5弱程度の強い揺れに見舞われ、 被害を伴うことがある[2]。
静岡県伊東市の沿岸から沖合にかけて、主に川奈崎の沖合を中心とした北西-南東方向のおよそ20kmの範囲では、過去に何度も群発地震が発生している。 一つの群発地震の活動期間は数日から10日程度であるが、長いものでは1か月程度続いたことがある[3]。このような群発地震活動が、1978年以降これまでに49回発生している。1998年までは活発な活動が発生していたが、その後、活動はやや低調になり、 群発地震活動期間中の地震回数も以前に比べて少なくなる傾向がみられる。 2012年以降は、群発地震活動は発生していない[3]。
1970年代〜1990年代に、伊豆半島周辺で発生したM6~7程度の規模の主な地震としては、1974年の伊豆半島沖地震(M6.9)、1978年の伊豆大島近海地震(M7.0)、1980年の伊豆半島東方沖地震(M6.7),1990年の伊豆大島近海地震(M6.5)などが挙げられる[4]。
伊豆東部で発生する群発的な地震活動は、これまでに地震・地殻変動観測データや研究成果が多く得られており、予測的な評価が可能な事例の一つとして、地震調査委員会において評価手法の検討・とりまとめが行われた[2]。
原因[編集]
伊豆東部で繰り返す地震活動の原因については、この地域が火山地帯であることから、 マグマの動きと関係あるのではないかと考えられていた[5]。 1989年6月から7月にかけて発生した地震活動の最中、伊東市の東約3km沖合の手石海丘で海底噴火が発生し、伊豆東部の地震活動の原因が地下のマグマ活動であることが裏付けられた[5][4]。すなわち
- 地下のマグマが、岩盤を押し広げながら上昇を始める(マグマの貫入)。
- 岩盤に押し広げられる力が加わり、周辺の岩盤が変形する(地殻変動)。
- 岩盤に押し広げられる力が加わり、地震が多発する(地震活動)。
という関係があり、地震活動と地殻変動がマグマ貫入という現象を通じて結びつけられることがわかった[5]。
予測[編集]
気象庁は、伊豆東部に設置されている体積ひずみ計などのデータをもとに、地震活動の見通しを予測している。
気象庁は、伊豆東部で群発的な地震活動が発生した際に、この手法に基づいて地震活動の見通しを評価し、「伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報」を発表する。この情報は、報道発表に基づき、地震情報(その他の情報)の「地震の活動状況等に関する情報」として発表される[2]。 「伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報」は、その情報本文のタイトルとして用いられる。この情報で利用する予測手法は過去の地震活動から抽出した特徴を基にとりまとめたものであり、過去の活動と同様の形式で発生する地震活動を予測する手法である[2]。
マグマの貫入の程度を表す地殻変動の大きさから、いくつかの段階を経て、 M1以上の地震の発生回数、最大地震の規模(M)、 伊東市で震度1以上を観測する地震の回数、及び活動期間の長さといった 地震活動の規模を予測する[5]。
伊豆東部の地下にマグマが貫入すると、地震発生と共に周辺地域で地殻変動が観測される。 この地殻変動をひずみ計等で検知する[5]。過去の事例から、東伊豆奈良本観測点のひずみ変化量と総マグマ貫入量との間に相関があることがわかっている。東伊豆奈良本観測点のひずみ変化量を監視し、 ひずみ変化量の最大から総マグマ貫入量を推定する。過去の地震活動においては、東伊豆奈良本のひずみ変化量の最大は活動の初期に現れることが多く、地震活動の規模を活動の早い段階で予測できることになる[5]。
過去の事例から、総マグマ貫入量と群発地震活動で発生するM1以上の総地震回数との間に 相関があることがわかっている[5]。総マグマ貫入量が同じでも、 マグマが深いところで留まる場合と、浅いところまで上昇する場合では、 発生する総地震回数は大きく異なり、後者の方が多くなる。 発生している地震の震源の深さからマグマ活動の深さを推測し、 それに応じた関係式を用いて、M1以上の地震発生数を予測する[5]。
一般に地震活動全体では、規模の大きな地震ほど発生数が少なく、 マグニチュードが1大きくなると発生数はおよそ10分の1になる[5]。 この関係式(グーテンベルク・リヒターの式:G-R式)を用いて、 M1以上の地震発生数から、最大規模の地震のMを予測する。 震源域と伊東市との間の距離と合わせて考えることにより、 この地震による伊東市における震度を求めることができる。また、同じ関係式を用いて、伊東市において震度1以上を観測する 地震の回数を予測することができる[5]。
過去の事例から、1回のマグマ貫入に伴って地震が多発する、主たる地震活動期間は概ね4日、長くて1週間程度である。 そこで、見通し情報では活動期間は4日~1週間程度と発表する。 引き続きひずみ変化を監視し、2回目以降のマグマ貫入があれば、 さらに4日~1週間程度地震活動が継続すると予測することになる[5]。
気象庁は、このような地震・火山活動の経過に対応して、伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報、伊豆東部火山群の噴火警報・予報及び噴火警戒レベルを発表することにしている[2]。
伊豆東部で群発地震活動が始まり、伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報が発表されても、この段階ではまだ火山活動は静穏だとして、噴火予報(噴火警戒レベル1)の状態に変化はない[2]。
マグマの浅部での活動を示す現象が観測されるなど火山活動が活発化し、居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生すると予想される場合には噴火警報(噴火警戒レベル4または5)を発表する。噴火警報を発表した場合、伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報は終了し、地震活動の現状については火山情報の中で伝える[2]。
気象庁は、伊東市、静岡県、火山専門家及び関係機関からなる伊豆東部火山群防災協議会に参画し、避難計画の策定、 防災教育や防災訓練の実施などの総合的な防災活動に携わっている[2]。
脚注[編集]
- ↑ 知恵蔵. “伊豆群発地震とは” (日本語). コトバンク. 2021年4月3日確認。
- ↑ a b c d e f g h i “気象庁 | 伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報について”. www.data.jma.go.jp. 気象庁(一部改変). 2021年4月3日確認。
- ↑ a b “気象庁 | 伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報について | 地震活動の特徴”. www.data.jma.go.jp. 気象庁(一部改変). 2021年4月3日確認。
- ↑ a b 小項目事典, ブリタニカ国際大百科事典. “伊豆東方沖群発地震とは” (日本語). コトバンク. 2021年4月3日確認。
- ↑ a b c d e f g h i j k “気象庁 | 伊豆東部の地震活動の見通しに関する情報について | 地震活動の予測手法について”. www.data.jma.go.jp. 気象庁(一部改変). 2021年4月3日確認。