世田谷ナンバー

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この記事はその主題が世田谷区に置かれた記述になっており、世界的観点から説明されていない可能性がありますが、ノートでの議論は必要ありません。(2022年11月)

世田谷ナンバー(せたがやナンバー)は、不正なアンケートにより導入されたことが違法であるとして、住民らに訴訟を提起されたご当地ナンバーである。本稿では、訴訟の原因となった不正アンケートの数的矛盾、保坂展人世田谷区長による世田谷ナンバー導入ありきの誘導行為を取り上げ、世田谷ナンバーの導入に関して、民主主義とは相いれない事実があったことを詳述する。

本稿では、世田谷ナンバー問題の本質である「不正アンケート」にフォーカスする。世田谷ナンバーによる地域経済の活性化、世田谷ブランド構築、車のナンバーの嗜好等の問題には言及しない。これらの問題は、世田谷ナンバーの「不正アンケート」とは問題の本質が異なるため、別稿にて記載願いたい。

概要[編集]

世田谷ナンバーは、2014年に導入されたご当地ナンバーである。ご当地ナンバーとは、通常、車のナンバーには、管轄する陸運局の所在地が表示されるが、[1]地域名の表示も可能になった制度である。国土交通省が登録台数等の条件を提示し、希望する地方自治体を募集、各自治体が都道府県に申請し、要件を満たせば同省が認可するものである。

2013年2月、ご当地ナンバー(第2弾)導入要綱(当時)[2]が同省より発表され、単独の自治体でも、10万台以上の登録があれば、「ご当地ナンバー」が申請できるようになった。

世田谷区内においては、地元商工団体が「世田谷ナンバー」推進活動を開始し、保坂展人区長に対し、「世田谷ナンバー」実現の働きかけを行った。[3]

なかでも、世田谷信用金庫理事長 大場信秀氏(東京商工会議所世田谷支部会長)が、「世田谷ブランド」というコンセプトを打ち出し、中心となって推進活動を行っていたことが知られている。[4]

保坂展人区長は(以下保坂区長)、世田谷の商工団体の意向をくみ、世田谷区自らも、当該推進団体が主宰する「世田谷ナンバーを実現する会」に加入し、推進活動を行った。当該推進団体の会員らとともにPR・署名活動を行い、最終的に世田谷区は、区民アンケートにて「住民の約8割の賛成(賛意)を得た」(表1問4)として、2014年6月、東京都に「世田谷ナンバー」を申請している。[5]

しかし、世田谷区HP上に公表された区民アンケート結果は、回答者の74%が60代以上(住基台帳上、60代以上の比率は29%→区HP統計情報館より[6])、20代の回答者はわずかに0.2% 3名 (同 15%)、居住3年未満(世田谷区の例年のアンケート調査では約10%[7])の人たちの回答数はゼロになっているなど、実際の住民属性と大きく乖離しており、アンケート対象者が住基台帳から無作為抽出されていないことが一目瞭然であった。世田谷区議会においても、無所属の議員らを中心に「世田谷ナンバー」に反対する区民らを代弁する形で、アンケートの不正が追及された。

ところが、保坂区長はアンケートの不正を認めず、反対意見は考慮されることなく、そのまま推し進められた。言い換えれば、ご当地ナンバー導入要綱第1弾では地方議会の承認が必要であったが、第2弾より不要になり、事実上、区長権限で「世田谷ナンバー」を押し通すことが可能であった。[2]

世田谷ナンバーは、東京都、国交省においても、アンケート不正が問題にされることもなく、区民から見れば説明が尽くされているとは言い難い状況下ではあったが、[8]審査が通過し、2014年11月からスタートした。

不正アンケートについて[編集]

異常な年齢の偏り[編集]

キーワード 大数の法則[9]

ご当地ナンバーは、自動車ユーザが従来の陸運局管轄ナンバー(世田谷の場合は「品川」)との選択はできず強制を伴うため、2013年当時の導入要綱においては、アンケート等で住民の意思を確認しておくことが要求されていた。(前出のご当地ナンバー第2弾 導入要綱を参照)[2]

世田谷区からアンケート対象者に送付された案内書には、対象者は住民基本台帳から20歳以上の方、4,000名(日本人のみ)を統計的手法[10]に基づき無作為抽出すると記述がされていた。[11]

同様に区のHPにも、住基台帳から統計的手法を使った無作為抽出と明記されてある。[12]

実施されたアンケート結果は表1のようになっていた。[13](世田谷区HPより)

表1 世田谷区が区民向けに行ったアンケート

対象者を統計的手法に基づき無作為抽出したと明記されているにもかかわらず、当アンケートは、下記の表2の通り、2013年当時の世田谷区の年齢構成比率と大きく乖離している。

表2 アンケートの年齢構成比率と住基台帳における年齢構成比率の乖離

世田谷区公式HP 統計情報館から作成[14]

一見して、問1の回答数の割合において、60代以上に過大な偏り、20,30代に過小な偏りがあり、この段階で、アンケート対象者が、統計的手法に基づいて無作為抽出されていないことがほぼ断定できよう。

統計学には、大数の法則[9]という基本定理がある。これは、一定数以上の標本を統計的手法に基づいて無作為抽出したら、その標本平均や比率は、母集団の平均や比率に近似するという定理である。例えば、世田谷区の平均年齢が42歳であれば、ある一定数以上、(標本数は誤差をどれくらい許容するかで決まる。4千件の標本誤差は1.58%であり「表4にて計算法を記述」、4千件は誤差を許容できる十分な標本数と言える)統計的手法を使って無作為抽出したら、抽出された人たちの平均年齢も42歳前後になる。世田谷区民の60代以上の年齢構成比率が29%だとすると、抽出された4,000名における60代以上の年齢構成比率も29%前後にならなければ、無作為抽出が適切に行われなかったのではないかと疑わなければならない。

ビッグデータ時代と言われる現代にあっても、政府、地方自治体が全数調査をやらなくても、一定数の標本調査で国民、地域住民の意思を確認できるとしているのは、統計学の基本定理である大数の法則が認識されているからである。

しかも、街頭調査などのように、たまたまインタビューのタイミングで高齢者に偏る可能性があるケースと異なり、本件の場合は、住基台帳という明確な母集団リストが存在する。統計的手法を使った無作為抽出であれば、抽出された標本は、実際の世田谷区に近似していなければならない。表2のように実際の年齢構成と大きく異なる結果が出たのであれば、無作為抽出が適切に行われなかったとして、無効かやり直しである。世田谷区が、あくまでも対象者を公正に住基台帳から無作為に抽出したと主張するのであれば、表1の回答結果に付け加えて、世田谷区民、第3者が納得できるように、下記の表3のように対象者抽出時における各年代別、男女別送付数、それに基づいた送付割合などの項目を追加すべきである。(二重線で囲った部分 もっともこれをやれば、作為したことを白状するようなものだが)

表3 住基台帳から統計的手法を使った無作為抽出であると世田谷区民、第3者に信じてもらうには

表2の実際の世田谷区の年齢構成比率を使い、住基台帳から統計的手法を使って無作為抽出すれば、4,000件のアンケートが年齢別にどのように配布されるかを計算すると、表4のようになる。    

表4 統計学の基本定理に従った場合の各年代の送付数

上記の元アンケート結果に合わせ、回答率が低かった20代~50代は下限方向に標本誤差が発生した(実際の比率より少なく抽出)と仮定して「b誤差発生時の下限値」、回答率が高い60代以上は上限方向に標本誤差が発生した(実際の比率より多く抽出)として「c誤差発生時の上限値」をあてはめ、想定される各年代の送付数と元のアンケート結果とつき合わせると、下記の表5にようになる。

表5 無作為抽出した場合の各年代の送付数(標本誤差を考慮)と実際の回答数

(*注 右の表の送付数には、20~50代に下限値、60代以上には上限値を当てはめているので、合計4,000にならないが、分析結果には影響を与えない)

これを見ると、60代以上において、住基台帳から統計的手法を使った無作為抽出という条件下であれば、算数的にあり得ない結果が起きている。アンケート件数4,000件から、想定される最大誤差が上限側に発生したとしても、アンケート送付数は1,195人にしかならない。1,467人という回答数を得るには、120%以上の回答率が必要である。

世田谷ナンバーアンケートにおいては、20代の99.5%、30代の92%が回答しなかったことになる。各種アンケートでも20代の回答率の低さは、よく指摘されるが、この結果は程度を超えており、たったの3件という回答数は誤差とみなすことができ、そもそも20代にアンケートが送られたのかという問題を提起できるレベルである。

30代も20代に比べればましだが、同様の問題が指摘できよう。40代、50代は比較的回答率が高い世代であるが、世田谷ナンバーアンケート全体の回答率が約50%であるにもかかわらず、これらの世代の回答率が全体の回答率から下方向に大きく乖離している。理由は、言わずもがな、60代以上の回答率が123%というあり得ない結果に起因するものである。

異常な居住年数の偏り  [編集]

表6 世田谷ナンバーアンケートの居住年数(再掲)

居住3年未満の回答数が0になっているが、これも年齢構成比率同様、算数的にあり得ない。世田谷区は、毎年、区民意識調査というアンケート調査を行っているが、直近の2021年の定住性という調査項目には、過去10年間の居住年数の推移が時系列で表示されている。[15][16]

図1 2021年区民意識調査における世田谷区民の居住年数(過去10年)

世田谷ナンバーアンケートが行われた2013年(平成25年)、居住3年未満の比率は、10.3%、10年以上は、71.3%となっている。統計学の大数の法則を適用すれば、4,000件×10.3%≒412となり、居住3年未満の412人前後の人たちに、アンケート用紙が送られているはずだが、回答者はゼロである。区民意識調査における居住年数から計算される回答数と世田谷ナンバーアンケートの回答数比較してみると、下記の表7のようになる。

表7  区民意識調査における居住年数から計算される送付数との比較

区民意識調査では2,352人中、242人が3年未満と回答し、ざっと約59%の回答率(242/412)が想定されるが、世田谷ナンバーアンケートの居住3年未満においては、1984人中、回答者は皆無である。世田谷ナンバーアンケートにおいて、居住3年未満の回答者がゼロ、回答者の99.6%が居住10年以上であるということは、項番2の(1) 「異常な年齢の偏り」と併せて考えると、統計的手法を基づいた無作為抽出は行われておらず、結果が操作されたと断定して間違いない。

区民意識調査における居住年数を過去10年時系列に見ると、世田谷区民の居住年数は、おおざっぱに10年以下が約3割、10年以上が約7割で推移している。世田谷ナンバーアンケートの回答者の99.6%が居住10年以上であるということは、約30%弱も住民属性が乖離しており、母集団が住基台帳ではないのではないかという疑いが自然と沸き起る。

性別の設問がない[編集]

区の公的なアンケートにもかかわらず、性別の設問がないことも、世田谷ナンバーアンケートの不自然さを際立たせている。性別の設問は、案件によっては、結果から性差を分析するという意味もあるが、この場合、年齢、居住年数と同様、アンケート対象者と母集団との適合性をチェックするためという意味合いが大きい。

性別を省くという行為は、結果の操作に直結しやすい。例えば、ある団体の会員名簿において男女比8:2だと仮定し、この会員名簿から対象者を抽出したら、男女の回答比率も8:2の近傍になろう。世田谷の成人男女比は47:53であり、(世田谷区HP 統計情報館 2013年データより[6])統計的手法を使った住基台帳からの無作為抽出であれば、男女回答比率は47:53という比率の近傍になるはずである。(少なくとも、男女均衡する)

つまり、性別の設問を省くと、母集団の男女比が均衡していない場合、住基台帳でない母集団から対象者を抽出したことを隠ぺいすることができる。(あくまでも理解のための例である。ある団体の名簿が使われたという確証はない)

回答者の74%が60代以上、同じく99.6%が居住10年以上、60代以上の回答率が120%を超えているという決定的な証拠から、結果が操作されたことは間違いない。それに付け加えて、性別の設問が設けられていないことは、母集団が住基台帳ではないのではないかという強い疑念を抱かせる。

なぜなら、年齢や居住年数は、たとえ結果が住基台帳と数的に矛盾していても「世田谷に長年住み、世田谷を愛する高齢者に世田谷ナンバーは支持された」というような物言いができないことはないが、住基台帳と大きく異なる男女比は、母集団が住基台帳であると言い切ることが極めて困難になる。したがって、敢えて性別の設問を設けなかった可能性が考えられるからである。

アンケートにおける誘導行為[編集]

アンケート対象区民に送られた世田谷ナンバーの賛否に問うアンケート用紙には、保坂区長名で「世田谷ナンバー新設に関するアンケートのお願い」というタイトルの文書が同封されていた。[17]それには、「7つの県より人口が多い世田谷区にあって、私たちの町世田谷の名前を車のナンバーに掲げることはごく自然であり、[18]世田谷ナンバーの新設をきっかけとして、さらに魅力ある街世田谷を作りたい、と考えています。」とあたかも世田谷ナンバー導入が既定路線であるかのように書かれていた。否定を避けたがる(世田谷ナンバー反対)人間心理を利用した露骨な誘導行為と言えよう。

さらに、下記の質問(表8、表9)は、恣意的に賛成を誘導しているのでないかと疑われる、通常のアンケートとは異なる質問形態であった。

表 8 恣意的質問1(再掲)

問4の回答には、「賛成・反対」しか選択肢がない。「区民意識調査」をはじめ区が行うアンケート調査にこの2つしか回答の選択肢がないものは存在しない。「どちらかというと賛成」「どちらかというと反対」「どちらでも良い」「わからない」などの選択肢があることが一般的であり、否定を避けたがる人間心理を考慮している。これらの選択肢を用意しなかったことは、賛成を誘導しているのではないかという指摘が可能である。

表 9 恣意的質問2(再掲)

「期待される効果」があるとすれば、「期待されない効果」もあるはずである。(例:今後、車を新規購入したり買い替えたりすると品川ナンバーが使えなくなる・居住地域が世田谷区であると特定される・その他)

導入のデメリットという設問を用意しないことにより、世田谷ナンバーに反対する意見を恣意的に排除しているように見える。

そもそも、住んでいる場所の表示名が自然というのは、定量的に裏付けられた結果であろうか。車ユーザにとっては、陸運局所在地(品川区東大井1丁目 京浜急行 鮫洲駅徒歩5分 通称 鮫洲)[19]が車のナンバー表示名であるというのがこれまでの認識であった。

例えば、車ユーザにとって、2年に1回、車検を通す必要がある。最近では車検代を節約するために、それを指南するYOUTUBE等の影響もあり、ユーザ自身が車を陸運局に持ち込むユーザ車検も多くなってきており、全体の3割を占めていると言われている。[20]ユーザ車検をやるにせよ、業者に任せるにしろ、マイカーを維持していくための作業は、通称「鮫洲」[21]で行われている。

世田谷陸運局ができたのなら、これらの作業を世田谷で行うため「世田谷ナンバー」も理解できないわけではないが、陸運局が存在しない「世田谷」をナンバーにすることを自然とは思わない区民も少なからずいるはずである。

世田谷ナンバー裁判について[編集]

東京高裁の事実認定[編集]

世田谷ナンバーアンケートにおいて、対象者を住基台帳から統計的手法を用いた無作為抽出が行われず、結果が操作されたことは、定量的に証明できる。(項番2の「不正アンケート」参照)

世田谷区議会においても、同様の観点から、不正アンケートについて追及がなされたが、結局、保坂区長によって押し切られた。(再掲 項番1 概要参照 2013年度のご当地ナンバーの申請に地方議会承認は不要[2]

このため、2014年11月、世田谷区民169名が、不正なアンケートによって強制的に導入された「世田谷ナンバー」は違法であるとして、保坂区長と世田谷区を相手取り提訴する事態に発展した。(原告代表 田中優子世田谷区議)

当裁判は、原審(東京地裁)、控訴審(東京高裁)と進んだが、最高裁において上告棄却となったため、東京高裁判決が当裁判の確定判決となっている。

東京高裁判決は、公務員の業務上の行為(この場合アンケート業務)は、違法にはならないという従来の判例を踏襲し、違法とは判断されず、原告の敗訴が確定した。しかし、違法か合法かを判断するための対象となる事実に関しては、世田谷ナンバーアンケートが不適切であることを認定した。[22](詳細は東京高裁判決を参照。下線部分)

世田谷ナンバー裁判におけるマスコミ等の切り取り報道と事実誤認[編集]

東京高裁判決の通り、世田谷ナンバー裁判における原告の訴訟理由は、「不正なアンケートによる導入は違法」であるが、裁判であるがゆえに、不正アンケートによって生じる可能性がある損害の具体例を挙げておく必要があった。その一つにプライバシーの侵害があったが、訴訟初期段階において、この部分を一部メディアに切り取られ、[23]その後もあたかも訴訟理由がプライバシーの侵害であるかのように報じられ、論評されている。[24]これは、事実誤認であり、主客転倒している。

そもそも、プライバシーの侵害という理由だけでは、裁判を闘うには証拠として弱く、現実的には裁判をあきらめざるを得ない可能性が高いと考えられる。その社会通念を打ち破る奇特な人たちが世田谷にいるという面白おかしい報道に使われた感がある。

世田谷ナンバー裁判には、不正アンケートという明確な証拠が存在したため、裁判を引き受けてくれる弁護士も現れ、原告らは車のナンバーという問題であるにもかかわらず、提訴できたと見るべきであろう。

東京高裁判決が示す通り、当裁判は、不正アンケートが違法であるというほぼ一点で争われた。[25] (P1下から11行~下から7行 またはP2下から4行~P3上から3行 両文ともほぼ同意)

世田谷ナンバーアンケートの不正が行われた理由[編集]

しかしなぜ、保坂区長は、公人としての見識を疑われるような、操作したことが一目瞭然であるアンケートを公にし、メディア等の前で8割の区民が賛成し、区民の賛意を得たと言い切れたのであろうか。

別の言い方をすれば、アンケートの捏造が行われたのは、アンケートを民主主義に基づいて実施すれば、賛成が反対に対し優位にならない可能性があると見ていたとしても、賛成8割はいかにも作為を疑われやすい数字である。(表1問4)賛成反対は6:4ぐらいに抑え、後々区民が裁判に訴えることができないように、このアンケートは捏造されているという証拠を立証できない形に、なぜしなかったのかという素朴な疑問である。

世田谷ナンバーは、2014年11月よりスタートした。2015年4月には、保坂区長にとっては2期目の区長選挙があり、保坂区長が世田谷ナンバー推進団体からの選挙協力を期待したことが、アンケートの不正につながったのではないかという見方をする世田谷区民が一定数いるものと思われるが、この領域は主観的になりやすい。

したがって、本稿では、選挙絡みの問題に言及するのは控え、より客観性のある事実として、裁判等を通じてわかった不正アンケートが行われた二つ理由を記述する。

保坂区長のデータリテラシーの低さ[編集]

キーワード

「保坂区長は、標本調査(アンケート)と全数調査(選挙)の違いを理解していない」

世田谷ナンバー裁判において、保坂被告は、原告の「世田谷ナンバーアンケートは、年齢等が偏っており住民ニーズを反映していないため、無効であり再調査すべき」という主張に対し、弁護士経由で下記のように反論している。

アンケートの無効については、

「原告らは、結果の均質性(筆者注 住基台帳との適合性の意)の確保が民意の必要条件であるかの如くいうが、これが必ずしも正しくないことは、より民意を正確に反映することが求められる選挙において、投票者の多数が高齢者であったなど、結果として投票者の属性に偏り(筆者注 原文は偏頗)があったことを理由に、民意が反映されていないとしてこれを無効にすることがない例を見ても明らかである。」

アンケートのやり直しについては、ほぼ同じ論調で、

「原告らは、結果の均質性が確保されていない場合にはアンケート調査の再実施が必要条件であるかのごとく言うが、これが必ずしも正しくないことは、投票者の多数が高齢者であったなど、結果として投票者の属性に偏頗があったことを理由に、再度選挙の実施を認めれば、為政者の満足する結果が得られるまでやり直しを許容することになり、かえって恣意を招くことになる例を見ても明らかである。」と反論している。 (保坂被告反論書面 [26] アンケートの無効については、P4上から9行目から13行目、アンケートのやり直しについては、P4下から5行目からP5上から1行目)

言うまでもなく、選挙は投票用紙が有権者全員に配布される。アンケートに例えれば、全数調査であり、高齢者に偏っても偏らなくても、年齢を問題にしようがない。一方、標本調査は、全住民の中から一定数抽出し、年齢構成比率、性別比などの住民属性をできるだけ世田谷区全体に擬製することにより、住民の意見を推しはかろうとする手法である。したがって、誰にどのような方法で、アンケート用紙を配布したのかが問題にされなければならない。配布先の属性が実際と大きく乖離していれば、それこそ保坂被告が当書面で反論した恣意を招くことになり、(P4 最終行からP5 1行目[26])結果が無効であることは論を待たない。

当反論書面を読む限り、保坂被告は、統計学の基本定理を外したアンケートの無効・再調査という原告の主張に対し、論点がずれた選挙の例を持ち出すなど、標本調査(アンケート)と全数調査(選挙)の違いを全く理解していない。

さらに保坂被告は、当反論書面において、前出の区民アンケート送付案内、(項番3 アンケートにおける誘導行為)あるいは世田谷区HPに「住基台帳から統計的手法に基づいた無作為抽出」にて対象者を抽出すると宣言しているにもかかわらず、「無作為のアンケート調査は、国交省に求められておらず、やり方は自治体の裁量」とまで言い切っている。(同反論書面P3 下から8行からP4 上から8行目まで[26]

さらに続けて、同時期に申請された「平泉ナンバー」のイベント会場等での調査例を出し、他所も無作為抽出を行っていないと反論している。平泉の調査は、「住基台帳から統計的手法に基づいた無作為抽出」であると住民に宣言して行った調査ではない。

「アンケート対象者を住基台帳から統計的手法を使い無作為に抽出」と世田谷区民に宣言した事実[11][12]に対し、そうはなっていないと原告区民は指摘しているにもかかわらず、論点がずれた反論を展開した。(同反論書面P5 上から10行目 から下から5行目まで[26]

(尚、世田谷ナンバーにおいては、平泉ナンバーのように一般区民が集まるイベント会場等にアンケート用紙が設置されたことはない。一般区民に(特に反対の立場の)世田谷ナンバーに対する意見表明の場がなかったことも問題の一つであった)

しまいには、国交省も当アンケート結果を認めているので、問題なしと結論付けており、国交省が善意の管理者あること(操作されたアンケート結果を論拠に、自治体が申請しているとは思っていない)を逆手に取って反論している。 (同反論書面 P5下から4行目からP6上から6行目まで[26]

国交省は、2022年4月、ご当地ナンバーの新導入要綱を発表、導入基準を変更し、世田谷ナンバーアンケートのような住民属性に偏りがあるケースを認めないとしている。(詳細については、項番5 新導入要綱を参照)

国交省も、世田谷のような虚偽申告(住民の合意形成がアンケートの作為によるもの)をしてくる自治体の存在を認識している可能性があろう。

このように、統計的手法を使った無作為抽出が行われなければ、公平に世田谷区民の意見をくみ取ることはできないという統計学の基本的な考えが欠落し、自分の都合のいい手法で区民アンケートを実施できると保坂区長が考えている以上、区長としての見識が疑われようが、疑われまいが、明らかに結果を操作したとわかるアンケートが堂々と発表されても不思議ではないだろう。

住民属性に大きな偏りがあり、世田谷ナンバーに反対した区民の直感と異なる賛成8割という極端な結果は、さすがに操作したことを疑われるのではないかというデータリテラシーを、事実、保坂区長は持ち合わせていなかった。

世田谷区議会のチェック機能[編集]

世田谷ナンバーアンケートの不正を問題視し、議会において異議を申し立て、区長を追及したのは、50名の区議会議員のうちわずかに3名のみである。残りの47名の区議会議員は、一見して作為の痕跡が残る不正アンケートに何ら異議を発しなかった。

新ご当地ナンバー導入要綱[編集]

2022年4月、国交省より2025年を開始年とするご当地ナンバー、図柄入りナンバーに関する導入要綱が発表された。[27]

これによれば、地域住民の合意を確認する方法に一定のルールが新たに設定されている。

具体的には、従前の要綱では、「対象地域内の市町村は、アンケート、ヒアリング等により住民のニーズを把握するものとする」としか規定がなかったが、下記の2点が新規に追加された。

(1)地域的その他属性の偏りがない等、適切な方法によりアンケート・ヒアリング等を実施すること 

(2)新規・変更登録等をする車は、すべてご当地ナンバーに順次変更されること等の新たな地域名表示の対象車を説明すること[28]

まさしく、「世田谷ナンバーアンケート」のような年齢構成比率、居住年数が実態と大きく乖離し、性別の設問を省き、本当に住基台帳から無作為抽出したのかどうかも確認できないような不適切な事例に対し、偏りのない適切な方法で実施せよという新たなルール設定である。[29]

同時に国交省は、メディア向けに、図柄入りナンバーの導入数、普及率が公表したが、表10の通り、世田谷ナンバーが導入数、普及率とも最下位であることがわかった。[30]

表10 図柄ナンバー普及台数、普及率 ベスト5 ワースト5

注:塗りつぶし:ご当地ナンバー 塗りつぶしなし:陸運局管轄ナンバー(国交省担当者に直接取材した結果より筆者作成)

図柄ナンバーの廃止基準が発表され、今後の導入状況によっては、足切りに引っ掛かり、世田谷の図柄ナンバー自体がなくなる可能性も出てきた。

(国交省HPには、同様の普及活動をしながら、順位に差がついているケースとして、「つくば」と「世田谷」との比較がされている。(両者ともご当地ナンバー P9 参考Ⅲ つくば 参考Ⅳ 世田谷 [31]

現在までのところ、国交省は、ベスト・ワースト5までしか発表していないが、時期は未定としながらも、全58図柄ナンバーの直近のランキングを発表する予定だとのこと。(2020年9月末は公表済み [32] p5 )

全ランキングデータが公表されれば、様々な要因分析が可能になるため、世田谷図柄ナンバーが台数、率とも最下位である理由が、図柄の不人気だけでは説明できない、世田谷固有の要因(例えば、区民が世田谷ナンバーを好んでいない)が存在するといった分析ができる可能性が出てくる。

例 図柄ナンバーの普及率・台数 = 図柄の人気度 + 図柄の人気度では説明できない固有の要因

また、図柄ナンバーの廃止基準の発表と同時に、同省は、2022年11月を期限に「ご当地ナンバー」の廃止も受け付けるとしている。[33]

これを受けて、2022年6月、田中優子世田谷区議は、区議会において、「世田谷ナンバー」は不正アンケート(項番2,3参照)により導入されており、正しい方法でアンケートをやり直し、世田谷ナンバー廃止か継続かを区民に問うべきであると訴えた。

これに対し、保坂区長は直接答弁せず、経済産業部長や副区長らが、アンケートのやり直しは行わず、図柄およびご当地ナンバーとも継続していくと回答している。[34]

後藤経済産業部長は、東京高裁の「アンケートが不適切」という事実認定に対し、「アンケートは、4,000名を無作為に抽出した。高裁の事実認定は、これからの行政をすすめていくうえで十分に考えなければならない」と答弁したが、[35]アンケートの不正については言及しなかった。また、「世田谷ナンバーは、既に普及率59%(12万台)であり、廃止は適切ではない。」と答弁したが、これは不適切な発言である。普及とはスマホの普及率のように強制を受けない形でユーザの間で広まっていくことを意味しており、法的に強制される世田谷ナンバーを普及とは言わないだろう。

登録台数が59%12万台に達しているため、廃止するのは適切ではないという答弁も理由がわからない。(強制により切り替わっているだけで、区民の自発的な意思ではない)物理的にも、現在の「品川→世田谷」の逆が起きるだけである。 (新導入要綱 p5 3行目から4行目[36]) 国交省の新導入要綱によれば、車の新規登録をしない限り、現在の世田谷ナンバーを元の表示名にする必要はない。 (同導入要綱 P4 上から2行目 項番3 P5 項番4[36]) 本稿項番3のアンケートにおける誘導行為でも記述したが、世田谷の車のナンバーは、従来通り鮫洲の陸運局が管轄しており、元の表示名に戻ったからといって、世田谷区に負担作業は発生しないはずである。

岩本副区長は、「アンケートの対象者抽出が不適切であったという東京高裁判決をしっかり受け止め、今後の行政に生かしたい」と答弁したが、後藤部長同様、不正アンケートには言及しなかった。[37]

区HPにある区議会ストリーミングを見る限り[38]、自ら世田谷ナンバー導入の先頭に立っていた保坂区長が(項番1 概要参照)直接答弁しなかったのは、区民目線で見れば、不正アンケートに反論できないからと見ざるを得ないだろう。

裁判が終結し勝訴すれば、許されるという問題ではなく、倫理上、不正アンケートは許されないはずである。答弁を拒否し、副区長、経済産業部長らに、今回の国交省のご当地ナンバー廃止に応募する予定はないと回答させるのであれば、不正アンケートにより導入された世田谷ナンバーは、今後も民主主義とは相いれない行為があったご当地ナンバーとして、世田谷区民の間で問題にされ続けるだろう。

参考文献[編集]

  ・刈屋武昭/勝浦正樹著「統計学」第2版

  ・酒井隆著「アンケート調査と統計解析がわかる本」新版

  ・福井武弘著「標本調査の理論と実際」

  ・日花弘子著「EXCEL 統計解析」第4版

脚注[編集]

  1. 従来の陸運局ナンバーは、「品川」である。(品川区東大井1丁目 通称 鮫洲 世田谷ナンバーになっても、世田谷に陸運局ができたわけではないので、陸運局の管轄は同じである)
  2. a b c d https://www.mlit.go.jp/common/000988760.pdf
  3. 当該商工団体から保坂区長への文書 「世田谷ナンバーを実現する会」への参加について https://1drv.ms/b/s!AsfGIyH6nlflgqJT5rbPKIeXKFxgHw?e=ZNDGct 世田谷区における「ご当地ナンバー」の導入について https://1drv.ms/b/s!AsfGIyH6nlflgqJUhxPzAF-dKtonxQ?e=PnkVtR
  4. (日本語) 世田谷人図鑑 第3回 大場信秀さん 世田谷信用金庫理事長 (2017/6/1放送), https://www.youtube.com/watch?v=8aYDUH6zAlU 2022年8月12日閲覧。 大場氏が「世田谷ブランド」に言及する16:00辺りから
  5. 被告世田谷区 乙6号証(都への申請.pdf”. onedrive.live.com. 2022年8月12日確認。
  6. a b 世田谷区の年齢別人口” (日本語). 世田谷区ホームページ. 2022年8月12日確認。
  7. 区民意識調査 定住性https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/006/003/d00192894_d/fil/06.pdf
  8. このことは、結果的に区民らによって、保坂区長が提訴された事実によって、説明できよう。
  9. a b 大数の法則をわかりやすく【意味・具体例・証明】 | 高校数学の美しい物語” (日本語). 学びTimes. 2022年8月12日確認。
  10. 世田谷区の区民アンケート調査では、等間隔法が使われている。 https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/006/003/d00192894_d/fil/03.pdf
  11. a b 被告世田谷区 乙8号証の1(誘導文).pdf”. onedrive.live.com. 2022-08-14 下から13行目確認。
  12. a b 「世田谷ナンバー」の新設に関するアンケート調査結果について” (日本語). 世田谷区ホームページ. 2022年8月12日確認。
  13. 「世田谷ナンバー」の新設に関するアンケート調査結果について” (日本語). 世田谷区ホームページ. 2022年8月12日確認。
  14. 世田谷区の年齢別人口” (日本語). 世田谷区ホームページ. 2022年8月12日確認。
  15. 対象 4,000名 層化2段無作為抽出法https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/006/003/d00192894_d/fil/03.pdf
  16. 区民意識調査は、比較的大きな標本誤差が生じている。説明書を読む限り、この理由は以下のように考えられる。 1. 2段階抽出をしているため 2. 1段階目の地点を抽出した後、2段階目で母集団の属性に合わせに行くプロセスが抜けているのではないか(理由はわからない)と見られるが、世田谷ナンバーアンケートと比較すると、統計学の基本定理に従った方法がとられている。したがって、区民意識調査をノーマルアンケートとして、世田谷ナンバーアンケートの異常さと比較することは適切と判断した。https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/006/003/d00192894_d/fil/03.pdf
  17. 被告世田谷区 乙8号証の1(誘導文).pdf”. onedrive.live.com. 2022年8月12日確認。
  18. 自動車業界関係者の間では、運転免許を持っていないか、ペーパードライバーの意見という指摘もある。自動車ユーザにとっては、車のナンバーは住んでいる場所ではなく、陸運局所在地(品川区東大井1丁目 車ユーザには、通称 鮫洲で知られている)というのがこれまでの認識であり、その認識を変えることができるのは、世田谷に陸運局ができることである。世田谷に陸運局ができたわけでもないのに「世田谷ナンバー」などナンセンスという話は、業界関係者の間では、よく語られた話のようである。世田谷ナンバーの実害としては、従前は書類上の手続きで済んだ案件が、世田谷ナンバーができたため、鮫洲まで車を持ち込まないといけなくなり、煩雑になったという話を聞く。
  19. 関東運輸局 東京運輸支局:東京運輸支局所在地”. wwwtb.mlit.go.jp. 2022年8月12日確認。
  20. ユーザ車検割合https://www.keikenkyo.or.jp/information/attached/0000020341.pdf
  21. 運輸支局「検査ライン」の実態!<前編> 【車検の現場から】:大人の社会科見学に出かけよう|カーセンサーnet”. shaken.carsensor.net. 2022年8月12日確認。
  22. TokyoHighCourt2.pdf”. onedrive.live.com. 2022年8月12日確認。
  23. “世田谷ナンバー”導入決定…反対住民が提訴も” (日本語). テレ朝news. 2022年8月13日確認。
  24. 「世田谷ナンバーは不利益」住民が区長ら提訴【ご当地ナンバー】” (日本語). ハフポスト (2014年10月28日). 2022年8月13日確認。
  25. TokyoHighCourt2.pdf”. onedrive.live.com. 2022年8月12日確認。
  26. a b c d e OneDrive”. onedrive.live.com. 2022年8月12日確認。
  27. https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001479403.pdf
  28. 世田谷ナンバー導入当初、従来の「品川」と選択制であると勘違いしていた区民が多数いたという話を自動車関係者から伝え聞く。
  29. 話を分かりやすくするため、導入要綱そのものではなく、導入要綱の骨子、変更点がまとめられた下記国交省URLを参照されたい。P1の新規追加 https://www.mlit.go.jp/common/001472300.pdf
  30. なぜ「世田谷ナンバー」最下位? 図柄版の普及率0.25%…区長「努力しなければ」 新ルールで廃止も?” (日本語). くるまのニュース. 2022年8月12日確認。
  31. https://www.mlit.go.jp/common/001461061.pdf
  32. https://www.mlit.go.jp/common/001461020.pdf
  33. 導入要綱 P4 上から19行目 1(1)③ 地域名表示の廃止 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001479403.pdf
  34. 保坂区長の判断にかかっています! 申請期限は11月30日! → 国交省の新ルールで、「世田谷ナンバーを廃止し、品川ナンバーに戻す」ことが可能となりました! - 世田谷区議会議員・田中優子の活動日誌” (日本語). goo blog. 2022年8月12日確認。
  35. 世田谷区議会インターネット議会中継-録画映像再生”. www.setagaya-city.stream.jfit.co.jp. 2022-08-12 確認。 “10:15辺り”
  36. a b https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001479403.pdf
  37. 世田谷区議会インターネット議会中継-録画映像再生”. www.setagaya-city.stream.jfit.co.jp. 2022年8月12日確認。 “13:28辺り”
  38. 世田谷区議会インターネット議会中継-録画映像再生”. www.setagaya-city.stream.jfit.co.jp. 2022年8月12日確認。