クモヒトデ
クモヒトデは、棘皮動物門クモヒトデ綱に属する生物の総称。五本の腕が放射状に伸びることはヒトデと似ているが、盤と腕の区別が明確で、かつ腕がひょろ長い。貪欲な捕食者であることが知られているヒトデとは違い、比較的おとなしいタイプが多い。その辺の潮間帯ではあまり目立たないが、海底ではかなりの生物量がある。世界で約2100種、日本からは約340種が知られている[1]。
生態[編集]
海洋の様々な環境にいるが、とくに漸深海帯(水深200~3000m)で多い[2]。北アメリカに生息するOphiophragmus filograneus など、他の棘皮動物の住まない河口近くの汽水域に生息する種もいる[3]。また、海底洞窟での種多様性が高いことも知られている[4]。もじゃっとした腕の腹がわに管足が並んでおり、それを使って餌を集める。海底を掃くようにして餌を集めたり、水中で腕を振り回して餌を集めたりする。テヅルモヅルやタコヒトデのようなひときわもじゃもじゃしたタイプでは、ウミエラやサンゴに絡みついて、そのポリプを食べながら同時にプランクトンや小魚を食べる欲張りな種もいる[5]。とはいえ、クモヒトデ全体で見ればデトリタスを静かに食べている種が多数派であると思われる。
形態[編集]
ヒトデとの厳密な違いは、腕の口側に歩帯溝という溝を持たないこと[6]。ヒトデではここに管足がびっしり生えているが、クモヒトデの腕の裏側にはそういうのはない。腕は柔らかく長いため、もじゃもじゃしていると何の生き物かぱっと見ではわからない。テヅルモヅルなどのツルクモヒトデ目の仲間では、腕が途中でさらに枝分かれしてもじゃもじゃになるものがいる。これを使ってサンゴなどに絡みついて生活を送っている。
生活史[編集]
繁殖は通常放卵放精で行われる。浮遊幼生であるオフィオプルテウス幼生、あるいはビテラリア幼生を経て大人になる。オフィオプルテウス幼生は、雰囲気ウニのプルテウス幼生に似ているが腕がながーい。ビテラリア幼生はニッポンクモヒトデなどで見られ、樽状の形をしている[7]。
分類[編集]
O'Hara et al. (2018)[8]に基づく。
- 完蛇尾上目 Ophintegrida
- ハナビラクモヒトデ目 Amphilepidida
- ゴヨウクモヒトデ目 Ophioleucida
- トゲナガクモヒトデ目 Ophiacanthida
- ムシクモヒトデ目 Ophioscolecida
- 広蛇尾上目 Euryophiurida
- ハクモヒトデ目 Ophiurida
- ツルクモヒトデ目 Euryalida
人間との関係[編集]
人間との関係はほとんどないに等しい。食べられないし、特に害になることもない。ドレッジと呼ばれる底引きを行うとたくさん採集される。潮間帯でも転石をひっくり返したりするとけっこういる。
クモヒトデは腕を巧みに操り、このたぐいの生物としてはかなり速く移動できる。この特徴に目をつけ、ロボット工学に活かそうとする研究がなされている[9]。
脚注[編集]
- ↑ “相模湾から新種のクモヒトデ発見:隠れた生物多様性”. 東京大学大学院理学系研究科・理学部. 2022年6月25日確認。
- ↑ 藤田, 敏彦 (1988), “深海産クモヒトデ類の生態”, 日本ベントス研究会誌 1988 (33-34): 61-73
- ↑ Turner, R.L.; Meyer, C.E. (1980), “Salinity Tolerance of the Brackish-Water Echinoderm Ophiophragmus filograneus (Ophiuroidea)”, Marine Ecology - Progress Series 2: 249-256
- ↑ 岡西, 政典; 藤田, 喜久 (2019), “琉球列島の海底洞窟から得られたクモヒトデ類について”, タクサ 46: 22-27
- ↑ 相生, 啓子 (1975), “クモヒトデ類の食性”, 日本ベントス研究会連絡誌 1975 (9-10): 24-27
- ↑ “相模湾から新種のクモヒトデ発見:隠れた生物多様性”. 東京大学大学院理学系研究科・理学部. 2022年6月25日確認。
- ↑ “ニホンクモヒトデ”. 国立科学博物館. 2022年6月25日確認。
- ↑ O'Hara, Timothy D.; Stöhr, Sabine; Hugall, Andrew F; Thuy, Ben; Martynov, Alexander (2019), “Morphological diagnoses of higher taxa in Ophiuroidea (Echinodermata) in support of a new classification”, European Journal of Taxonomy 416: 1-35
- ↑ 加藤, 剛史; 石黒, 章夫 (2015), “クモヒトデに学ぶレジリアントな振る舞いの設計原理”, 計測と制御 54 (4): 254-259