アルス・マグナ
アルス・マグナ(Ars Magna)とは、
- 言語哲学上の理論のひとつ。
- 神秘的錬金術の思想のひとつ。
- 16世紀の代数学の著書。
- 2009年にサービス終了したオンラインゲーム「Ars Magna 〜封印の大地〜」の略称。
- バンドグループジギタリスの3rdアルバム「Ars Magna(アルス・マグナ)〜大いなる作業〜」の略称。
- 2.5次元コスプレダンスユニットとかいうよく分からない団体。→アルスマグナ (ダンスユニット)
ラテン語でArsは「技」、Magnaは「偉大な」を指し、訳語としては『大いなる術』『偉大なる法』などが用いられる。
なお、本項目では現在3.のみを解説している。それ以外は加筆者募集中。。。
概要[編集]
1545年にジロラモ・カルダーノが著した、代数学に関する書物。彼が計画していた百科事典の第10巻目にあたる書物として出版された(結局、この百科事典は完成しなかった)。直訳すると『偉大なる技法、あるいは代数の方式』。別名『大学術』と呼ばれるときもある。世界で初めて三次方程式の根の公式を公表した書籍として名高い。ルネサンスに新しい科学を打ち立てた本であり、数学史家のロナルド・カリンジャーは、アンドレアス・ヴェリサウス『人体の構造について De humani corporis fabrica』や、コペルニクス『天球の回転について De revollutionibus orbium coelestium』と匹敵するものとして本書を挙げている。
本書に書かれた三次方程式の解法は、ニッコロ・タルターリアから秘密裏に教えてもらっていたもので、カルダーノは「キリスト教徒として、また一人の紳士として誰にも口外しない」という約束をしていた。勝手に本に書かれたタルターリアは激怒したが、カルダーノは、シピオネ・デル・フェロのほうが先に公式を発案しており、タルタリーアはそれを完成させただけに過ぎず、真の考案者ではないと反論した。[1]2人の間では激しい論争が繰り広げられた。(現在、三次方程式の解の公式を一般に「カルダーノの公式」と呼ぶのもこのような経緯による。)
当時の数学者たちは、「コシスト」から受け継がれた秘密主義の傾向を持っているものが多数派であった。コシストとは16世紀に商人のもとで働いていた会計処理のエキスパートたちのことで、彼らはそれぞれ独自に複雑な計算をこなすためのスキルを持っていた。つまりその頃における「数学」は「企業秘密」だったのである。これが2人の論争の背景にあった。このトラブルが、当時の数学界の秘密保守的傾向に一層の拍車をかけ、19世紀末ごろまでその傾向は続いたという。(現在の数学者はよくティーパーティーを開き、定期的にお互いのアイデアを共有しあっているが、こういった光景は比較的近年になってからのことなのである。)ただし、オイステイン・オアの指摘によれば[2]、当時の人々はこの問題に対して誰も問題視しておらず、否定的な見方はむしろ後の18世紀になってから生まれたのだという。ちょっと曖昧なところである。
なお、この『アルス・マグナ』には四次方程式の解法も載っており、これは、カルダーノの弟子・ルドヴィコ・フェラーリが発見したものである。人の業績をパクってばかりに見えるが、それなりに為すべきことは為している。公式を記述するために虚数という概念を世界で初めて導入したのは、他ならぬカルダーノ自身の功績である。
誓約の実際[編集]
実際に「口外しない」という誓約はあったのか?
「誓約はあった」とするのが通説である。ただ、その根拠はたいてい、1546年(アルス・マグナの翌年)に出版された、タルタリアの著書『新しい問題と発明 Quesiti et Inventioni Diverse』での言い分に基づいている。
先述のフェラーリ(カルダーノの弟子)は、2人の会合の場に同席しており、そのような誓約はなかったと、後に神に誓っている。
伝記作家アラン・ワイクスは、カルダーノは自力で三次方程式を発見しており、『アルス・マグナ』内でタルタリアから教えてもらったかのように記述したのは、筆が滑ったか記憶違いであると考えている。[3]
脚注・ソース[編集]
- ↑ カルダーノとタルタリアの2人は、1543年にボローニャに旅し、数学者仲間のデラ・ナーヴェを訪問し、デル・フェルロの論文を検討する許しを得た。そこでデル・フェルロのほうが先に三次方程式を解いていることを発見していた。この発見によって、2人の間の誓約が無効になった、とカルダーノが判断した可能性はある。
- ↑ 84-85ページ 『カルダノの生涯―悪徳数学者の栄光と悲惨』(安藤洋美・訳) ISBN 978-4489010880
- ↑ 115ページ Cardano, Physician Extraordinary (1969年)
参考文献[編集]
- 『フェルマーの最終定理』 サイモン・シン:著、青木薫:訳(新潮文庫) ISBN 978-4-10-215973-6
- 『数学10大論争』 ハル・ヘルマン:著、三宅克哉:訳(紀伊國屋書店)ISBN 978-4-314-01059-7