黄昏の告白

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黄昏の告白』(たそがれのこくはく)は、浜尾四郎の短編推理小説1929年7月『新青年』に発表。

木々高太郎は、本作と「彼が殺したか」「正義」の3作を指して、「こゝにあげた三篇の如きは、芥川龍之介の文学が純文学であるならばその同じ立場に立つて純文学であると言つてよい」と述べている。[1]

あらすじ[編集]

大川竜太郎は、かつては一世を風靡した大戯曲家であったが、最近はめっきり取り沙汰されなくなった。というのも、彼の作品の質が低下するのと並行するようにして、ライバル・米倉三造の名声が高まっていったためである。大川と米倉は単に戯曲界でライバルであるのみならず、かつて蓉子という一人の女性を取り合ったこともある仇敵であった。最終的には大川が勝ち、結婚することも出来たのだが、最近その妻の気持ちが自分から離れていっているように感じられて、大川は焦りを覚えていた。名落ちしてる自分を見捨てて、名声が高まりつつある米倉の方に、心を動かしつつあるように感じられたからである。じきに出来た子供・久子も、本当に自分の子か疑わしく感じられたので、大川は医学士の友達・山本正雄に、自分の子供を作る能力について質問してみた。然しその回答は曖昧なもので、明確な答えを得ることが出来ないながらに、彼は妻の姦通を確信していった。

ある日の夜のこと、周辺一帯で折りしもの話題となっていた泥棒が、大川家のところにも侵入してきた。竜太郎は護身用のピストルで犯人を射殺して妻を助けるが、妻は感謝するどころか犯人を殺したことを責める様子である。それを見て遂に、彼の日ごろの鬱積した不満が爆発する。彼は、このタイミングで妻を殺せば、泥棒の犯行であるように見せかけられることに気付き、そのまま妻を絞殺する。一般には不幸な事故として、この事件は知れ渡り、大川は周囲の同情を集めた。

然しその事件からしばらくするうちに、大川は自責の念に捕われ始める。妻が姦通していると思ったのは、単に自分の猜疑心ゆえではないのか、と思い始めたからだ。その思いが募って遂に彼は服毒自殺を決行する。然し辛くも即死には至らず、友人の山本の病院に搬送される。とはいえ状態が全快したわけではなく、死ぬのは時間の問題であった。

そしてここから大川と山本の間で告白が始まる。表題にある「黄昏の告白」である。大川は、自分の命は風前の灯であることを自覚しており、遺言としてこれまでの経緯をすべて山本に話す。姦通に対する不安のこと、泥棒の犯行に見せかけ絞殺したこと、しかし後悔を感じて自殺を決行したこと・・・などなどなど。そして最後にもう一度尋ねる、自分の子供を作る能力について。大川が確信していた通り、山本のあのときの回答は敢えて言葉を濁したものだった。大川には子供を作る能力は全然無かったのだ。山本は更に続ける。「大川、もう一つ云う、云わなければならない。君の夫としての直観は正しかったのだ。しかし全部が正しくはなかったのだよ。……僕は君が蓉子を殺したことを知ったのではない。また推察したのでもない。君は夫として芸術家としての直観と云ったね。しかし僕のは……僕のは、恋人として、愛人としての……」然し最後まで聞き終えることなく、大川は命尽きてしまう。

しばらくして山本の変死体が発見された。自殺ではないかと推測されたが、自殺の動機を知るものは、この世には誰一人としていなかった。

出典[編集]

  1. 「回想の浜尾四郎」『宝石』1953年5月号。

外部リンク[編集]

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