睡り人形

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睡り人形』(ねむりにんぎょう)とは、木々高太郎の短編小説のタイトル。『新青年』昭和10年2月号に発表された。変態性欲をテーマとしている。氏の代表的作品として挙げられる事もしばしばある。

概要[編集]

医学者の西沢芙美太郎先生に師事していた者の手記、という形式で全編が描かれている。中途には西沢自身の告白書が挿入されており、これが本作品の核となっている。


西沢は強力な睡眠薬の研究の為に不眠症の妻を実験体に用いるが、予想に反して作用が強く嗜眠性脳炎に類似した症状に陥り、やがて死んでしまう。その後、松子という後妻を娶ったが、この松子がヒステリーチックでまた嫉妬心が強い。妻を完全に支配したい欲望から、西沢は前妻に使ったのと同じ睡眠薬を、慎重に少量与え、嗜眠性状態に陥れる。食事ひとつするにも、体を強く揺り動かし言葉を掛けつづけない限り、すぐ眠りに落ちてしまう状態になったのである。また薬の効用により大脳両半球が機能停止しているため、痛みにも快楽にも強く反応するようになった(視床感覚説)。羞恥といった感覚も一切、失われている。そこで西沢は、始終眠り続けている妻と毎日のように性的快楽に耽る様になってしまった。そのうちに妻が妊娠をし、嗜眠性状態のまま出産まで完了させる。

ところがあるとき、家の中の手伝いをしていた婆やが亡くなってしまう。西沢自身も加齢による体力の衰えを感じてきており、普通の病人の何倍も手間がかかる妻の面倒を見切れる自信がなくなってしまう。そこで仕方なく睡眠薬を更に与え、前妻と同じ嗜眠性脳炎に類似した症状で今の妻を死なせる事にした。

その後、「私」(手記の書き手)は夏季巡回大学の講演の際、近くで起こった2件の殺人事件の死体解剖に立ち会うことになった。どちらも少女が狙われており、また死後に屍姦されていることが特徴的な事件であった。犯人の男は縊死を遂げていたということだが、立ち会ってみて驚いた。その犯人とはほかならぬ西沢先生のことだったのである。


これは云わば、一人の人間が人形愛好症、そして最終的に屍体愛好症に陥るまでの過程を描いた作品であるということができる。後妻に睡眠薬を盛るに至った心理的経緯や、尿閉の問題の解決方法などの描き方はよく練られており見事という他ない。

関連項目[編集]