刀葉林

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刀葉林(とうようりん)は、仏教における地獄の責め苦の一つ。衆合地獄しゅうごうじごく(生き物を殺し、物を盗み、文化的行為をした者が落ちる[1])に在るという。

概要[編集]

刀葉林へは愛欲に溺れた男が行くとされる。そこには刀葉樹とうようじゅという、葉が鋭い刃で出来た樹木がある。刀葉樹の上から美女が手招きしており、登って美女を抱こうとすると美女が下に消える。下で美女が手招きしているので、刀葉樹を降りて抱こうとすると、美女が上にいる。これを永遠に繰り返す。その間、亡者の体は刃のように鋭い葉でボロボロになっていく。刀葉樹についてはいくつかの文献に記述がある。『大智度論だいちどろん』第十六(漢訳:402年 - 405年)にある「鉄刺林地獄」もその一例である。しかし何と言っても詳しいのは『正法念処経しょうぼうねんじょきょう』巻六(漢訳:元魏時代)である。『往生要集おうじょうようしゅう』(985年)の編纂に際して源信(942年 - 1017年)が参照したのも『正法念処経』である[2]聖衆来迎寺しょうじゅらいこうじ(滋賀県大津市)に伝わる国宝「絹本著色六道絵」衆合地獄幅に描かれた刀葉林では、刀葉樹の上の美女は十二単を着ている[3]

この責め苦のポイントは、身を切られる肉体的苦痛に加えて、ほしいものが手に入らない精神的苦痛がプラスされるところにある(心身二苦)[4]

なお、室町時代あたりから、刀葉樹の上にイケメンがいる女性向け刀葉林も文献に現れる(一例として出光美術館に収蔵されている「十王地獄図」[5])。女性の皆さんも安心はできない(?)[4]

こうして永遠に報われない責め苦が与えられる地獄は古今東西様々な形で存在しており、その中にはシーシュポスが運ぶ岩玉や、タンタロスの飢餓・渇望地獄などが存在する。

出典[編集]

  1. 田村 2020, p. 36.
  2. 加須屋 2019, p. 75.
  3. 加須屋 2019, p. 75-76.
  4. a b 田村 2020, p. 37.
  5. 加須屋 2019, p. 76.

参考文献[編集]

  • 加須屋誠 『地獄めぐり』 講談社〈講談社現代新書〉、2019年6月20日。ISBN 978-4-06-516147-0
  • 田村正彦 『てくてく地獄さんぽガイド』 グラフィック社、2020年10月25日。ISBN 978-4-7661-3414-8