ドーピング
ドーピング[編集]
ドーピングとは、スポーツにおいて、競技能力を向上させる効果をもつ物質のことをいう。禁止薬物を意図的に使用することだけをドーピングと呼びがちだが、ルールに反する様々な競技能力を高める方法や、それらの行為の隠蔽も含めて、ドーピングと呼ぶことになっている。ドーピングは、自分自身の努力やチームメイトとの信頼、競い合う相手へのリスペクトやスポーツを応援する人々の期待などを裏切る、不誠実で利己的な行為であり、ドーピングがある限り、そもそもスポーツはスポーツとして成り立つことができない。
主なドーピング物質[編集]
フルオキシメステロン、テストステロン、メタンジエノン、クレンブテロール、リガンドロール、メタンフェタミン、バゼドキシフェン、オスペミフェン、タモキシフェン、クロミフェン、インスリン、シアノコバラミン、サルブタモール、ホルモテロール、サルメテロール、エフェドリン、デスモプレシン、ジベンゾフルベン、プロベネシド、フロセミド、アセタゾラミド、ベンドロフルメチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジドなど。
有名なドーピング検査[編集]
ここでは、ドーピング対象薬物として、興奮剤であるエフェドリン、メタンフェタミンをとりあげる。エフェドリンはある一定濃度(尿中10g/mL)以上の場合は違反になる薬物である。一方、メタンフェタミンは濃度に関係なく検出されると違反になる薬物である。これらの薬物を分離・検出するために、比較対照薬物として、化学構造の類似したイソブチルベンゼンを用いる。ドーピング検査の検体試料として、尿を用いる。尿にタンパク質が含まれると検査を妨害する。そのため、尿検体に過酸化ウラニル酸(HUO5)を加え、遠心分離し、タンパク質を沈殿させて除去する。過酸化ウラニル酸は、不安定で強い酸であるため、タンパク質が変性する。各薬物の特定には、クロマトグラフィーによるRf値を用いる。試料をスポットした位置を原点として、溶媒が上がった先端までの距離をBとする。また原点からスポットの中心までの距離をAとする。この時、AをBで割った値をRf値といい、この値は各薬物固有の値となるため薬物を特定することが可能となる。試料中の各薬物は薄層固定相への吸着力が強いほど移動距離は短くなる。ここで、エフェドリン、メタンフェタミン、イソブチルベンゼンの3つの薬物成分を含む混合物の分離を行う。薄層の下端から1.0cmの部位に混合物をスポットし、クロロホルム、アンモニア、幻影液(イソブチルアルデヒドとアセトンの混合液)の混合溶媒を用いて展開する。このイソブチルアルデヒドは、単に少しでも反応性を高くするために用いられ、共通の原子団を持つ有色の物質であるのを利用している。各薬物の検出には、すべての対象薬物に反応し紫色を呈するヨウ素粉末と、メタンフェタミンに反応し橙黄色を呈し、シンチレータ(放射線が当たることによって蛍光を示す性質を持つ物質)の性質を持つ富永液(富永淳氏によって考案された、BiI3・KI・TlI混合液で、TlIはシンチレータを利用してこの試液の担保性を確保するために含んでいる)、エフェドリンと反応し、赤紫色を呈色するニンヒドリン試薬を用いる。薄層クロマトグラフィーと同じ原理で薬物を分離する方法として、高速液体クロマトグラフィーがある。シリカを充填したカラム(固定相)に試料を入れ、カラムに高圧の液体(移動相となる展開溶媒)を加え、カラムを通過する薬物を検出器で連続的に測定する。固定相に対する官能基の吸着力は薄層クロマトグラフィーと同じである。測定結果は、時間(x軸)に対する薬物の量(y軸)とするクロマトグラムとして得られる。各薬物のピークの高さは試料中の薬物濃度に比例する。エフェドリン、メタンフェタミン、イソブチルベンゼンの3つの薬物を含む試料の場合、特定のクロマトグラムが得られる。高速クロマトグラフィーの信号強度は測定毎に変わるので、試料中の薬物濃度を求めるために、基準となる薬物(内部標準物質)を用いて、対象薬物についての検量線を作成する必要がある。検量線は試料中の内部標準物質を一定濃度にしたまま、複数の濃度の異なる対象薬物のピークの高さの比を横軸(x軸)、対象薬物濃度を縦軸(y軸)として、グラフにプロットすることによって求める。その後、検量線をもとに試料中の対象とする薬物の濃度を計算する。一般に、薬物を含まない尿について、内部標準物質イソブチルベンゼンの濃度を1g/mL、エフェドリン濃度を5g/mL、20g/mLになるように添加した場合のクロマトグラムを示すことが多い。次に、尿検体試料に内部標準物質イソブチルベンゼンの濃度を1g/mLになるように添加して、高速液体クロマトグラフィーの測定を行う。溶媒が上がった先端までの距離を参考に、エフェドリンの薄層固定相の下端からの距離を計算し、エフェドリンの検量線を求めるため、イソブチルベンゼン濃度に対するエフェドリン濃度の比を横軸、エフェドリンの濃度を縦軸にプロットするとき、プロットした2点を結ぶ直線を検量線と仮定し、その一次関数の式を利用して、陽性である陰性であるかを数値的かつ正確に判定することができる。