よみもの:微分を理解するための昔話
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微分を理解するための昔話は、筆者が大学(学部)生のときに知り合いから聞いた短編の物語である。しかし、私が調べた範囲では類似する内容の話が見当たらない。上記のように出所不明の話ではあるのだが、微分の学習者にとって有用な示唆を含んでおり、「よみもの」というカテゴリーなら許されるだろうと判断したため記事としてこれを残す。
特に、
「の微分がとかの計算はできる。これがグラフの接線の傾きだということも知っている。でも受験が終わったら二度と使わないじゃん。」
「微分の定義は知ってるけど、極限とか使ってて結局何がしたいのかよくわからない。」
という人がいたらぜひ読んでほしい。
内容[編集]
昔々、あるところに偉大な魔法使いとその弟子がいました。偉大な魔法使いはある装置を持っていました。その装置は、kgの石を入れるとkgの金塊を出します。
魔法使いは弟子に「1日に1回、この装置に1kgの石を入れ、1kgの金塊へと変えておくように。」と命じていたので、弟子は毎日この作業をおこなっていました。
ある日、弟子に恋人が出来ました。弟子は遊びに行く機会が増え、魔法使いの師匠からの給料では足りない、もっとお金が欲しいと思うようになります。
そこで弟子は、例の装置に入れる石を1kgからほんの少しだけ増やし、出てくる金塊のうちほんの少しだけ増える分の金を持って帰ることにしました。
装置に入れる石を1g増やすと、出てくる金は2.001g増えました。
装置に入れる石を2g増やすと、出てくる金は4.004g増えました。
装置に入れる石を3g増やすと、出てくる金は6.009g増えました。
ここまで観察した弟子は、増やした石の約2倍だけ金が増えることに気付きました。
弟子は一瞬悩みましたが、
「そうか。の微分はだ。ここに1を代入すれば2だな。だから2倍なのか。」
とつぶやき勝手に納得すると、そのままデートに行ってしまいました。
解説[編集]
なぜ2倍になるのかを考えるために、以下の関数に入れるをほんの少しだけ増やしてみる。
… (1)
ほんの少しの量をに加えたときにが増えるほんの少しをと表すことにする。さて、今知りたいのはに対してが何倍かである。
ここで、「ちょっと増やした石」はに、「ちょっと増えた金」はに対応するから、今知りたいのは以下の式の値である。
… (2)
それでは、(1)のをだけ増やした場合について考える。それはすなわちをに置き換えることを意味する。その結果としてはに変化する。つまり、(1)は以下のように変わる。
… (3)
上式の右辺を展開すると以下のようになる。
… (4)
(4)の両辺から(1)の両辺をそれぞれ引くと以下の式を得る。
… (5)
(5)の両辺をそれぞれで割ると、我々が求めていたものが以下の形の式で表せることがわかる。
… (6)
ここで、装置に入れていた石が1kgであることから、上式にを代入すると、
… (7)
となる。上式から、はの約2倍であることがわかる。
さて、微分とは何かというと、を0にギリギリまで近づけたときの(2)の値を指す。「ギリギリまで近づける」というのはまさに極限(limit)のことだが、「を0にする(代入する)」というのとは違い、ちょうど同じ値にはならないということが重要である。ここまでの話を踏まえて微分の定義を改めて見てみよう。以下のようなものである。[1]
… (8)
上式に(6)を代入すれば、は0に限りなく近づくから、以下のようになる。
… (9)
結局のところ微分とは、「を少しだけ増やしたときにも少しだけ変化するが、その割合はどれくらい?」という疑問に答えるための道具なのである。
今回は石を金に変える荒唐無稽な装置について考えたが、同じ「微分」という道具はたとえば
- 少しだけ離れた位置の気温の推定
- 数日後の感染者数の予測
- 天体や人工衛星などの軌道の計算
といった現代文明にとって欠かせない分野で現代でも役に立っている。
注釈[編集]
- ↑ 「分子で引き算してなかった?」という疑問を持つ読者がいると思うが、とについてそれぞれ明言すればこの定義で問題ない。